こたつねこの勉強部屋

独学の記録。

「無頼伝 涯」-福本伸行に見るブラック企業

私は「ハルオサン」というはてなブロガーの読者なのですが、彼のブログに先日こんな記事がアップロードされていました。

www.keikubi.com

ハルオサンのブログはいつも社会のブラックな面を書きつつも、どこかユーモラスで親しみの持てるところが好きなのですが、この記事(漫画)はいつもと違って、初めから終わりまで「真っ暗」な印象を受けました。初期の作品ということで、現在と書いた状況や作風が違うからかもしれませんね…。

 ちなみに、ハルオサンは本も出してます。ブログが気になった方は、書籍もチェックしてみてくださいね。

で、この記事をよみながら、すごい既視感を感じたんですよね(もちろん彼の記事がパクリだのどうのという意味ではありませんよ)。

あとで、思い当たりました。

あ、福本伸行の漫画だ、って。

福本伸行といえば、ギャンブル漫画の金字塔「カイジ」を思い浮かべる人も多いはず。

マンガ、アニメだけでなく藤原竜也主演の実写映画も有名ですね。

 

他にも麻雀を題材にした「アカギ」も知られています。

これらの作品のイメージから福本伸行=ギャンブル漫画のイメージが強い人が多いと思いますが、実は元来はヒューマンドラマの書き手で、ギャンブルと関係ない作品でも傑作を残しています。

そんな福本伸行の隠れた名作、それが「無頼伝 涯」です。

 

これは青年誌で漫画を描いていた福本伸行が少年漫画に挑戦したチャレンジングな作品です。悲しいことに内容が少年誌にあっていなかったようで、たった5巻で終わっています。

 

でも実はとっても面白い漫画なんです。

以下大まかなストーリーです。

主人公の中学生、工藤涯が殺人容疑で警察に追われているところから物語はスタートします。

涯は身寄りのない子供で施設で育ちました。周りの同級生が親に文句を言いつつも、生活の多くを大人に依存していることにいら立ちを感じる毎日で、周囲からは孤立しています。

しかし涯は自分もまた大人に寄り掛かった生き方をしていることに気が付いています。そんな自分と決別するため、彼は施設を出て一人暮らしを始めようとします。

もちろんつてのない中学生が一人で暮らしていくなど無理な話。そんな涯の前に現れたのが金持ちの同級生でした。

腕の立つ彼を同級生のお爺さんがボディーガードに高給で雇いたいという思いがけない提案にのってしまった涯。

しかしこれは罠でした。

金持ち同級生の家では、身内の争いですでにお爺さんは殺されており、涯は殺人犯に仕立てられてしまいます。

涯は未成年の殺人犯として矯正施設に送られつつも、自分を逮捕した刑事と同盟を結び、無実の立証の為に動き出します。

しかし矯正施設は真犯人の息のかかった場所、凶悪な所長の支配する地獄のような場所でした。

涯はどうやって自分の無実を晴らすのか。

施設から生きて脱出できるのか。

ミステリー要素とアクション要素が絡み合い、ページをめくる手が止まらなくなる漫画です。

 

話を戻しますと、

涯が送られた矯正施設では非行少年の性格を強制するためにとんでもない授業が行われています。

それは、四つん這いでしかいられないような低い場所に裸で少年たちを放置し…電気の流れる棒で制裁され…所長の質問に正しく答えられないと天井がどんどん下がっていくというもの。

(まあ、この「たくさんの少年たちが裸で四つん這いにさせられている」絵がヤバすぎて打ち切りになったのかな…という感じですが。)

このようなひどい仕打ちの後、授業の終わりに何が行われると思いますか。

それは所長や所員たちによる「優しい言葉」と「抱擁」なのです。

人間の尊厳をズタズタにされ、「犬」呼ばわりされたあと、それを指示した当の本人からの手のひらを返した祝福。君たちが犬から人間になるために必要なことだったのだ、と涙を流しながら語る所長の懐に、少年たちもまた泣きながら飛び込んでいくのです。

 

しかし、涯は気が付いています。

これが巧妙な罠だということに。

 

人はプライドを折られ、奴隷のように扱われ、ボロボロになった後に、優しい言葉で存在を受け入れられるとなぜか全面的に相手に心を許してしまいます。その優しい言葉をかけている相手は、自分を痛めつけた当の本人であるにもかかわらずです。

これは、ハルオサンの記事でブラック企業の社長がバイトに降格した元正社員に「自分はお前たちを信じている」と優しい言葉をかけ、信頼を勝ち得ているのと同じ構造だと思います。

 

社会にはいつでもこの構図が存在します。

ブラック企業しかり、

似非宗教団体しかり、

家庭内暴力しかり、

リンチまがいの行き過ぎた部活動でもそうですよね。

 

涙を流しながら、虐げられた少年たちが所長の胸に飛び込んでいくのを見て、涯は言っています。

 

「悪魔はみな優しいのだ・・・!」(引用元:『無頼伝 涯』3巻)

 

 

悪魔は皆アメとムチの使いどころをよく知っています。

存在価値がない自分を受け入れてくれる人は人間にとって砂漠の中の水のようにありがたい存在ですよね。でも、あなたの存在価値を破壊したのは誰でしょうか。よく考えてほしいです。

 

今の教育は「生きる力」の育成にとても熱心です。幼児教育界隈では「非認知能力」の育成も主張されています。ぶっちゃけ、「生きる力」「非認知能力」というのはすごくアバウトな言い方だと思いますが、結局はこういったまやかしに対抗できる「どうでもいい他人に破壊されない確固たる自己愛・プライド」と「そこから発生する自分で知識を獲得したいという欲求・知識を獲得できるという自信」のことなんじゃないかなと思います。

これがブラック企業につぶされない人材なんだろうな、と。

 

涯にはこの「生きる力」があるんですよね。

 

紙の本は絶版になってるみたいですけど、Kindleをつかえば格安で読めるので是非読んでほしい作品です。

いつかはアニメ化してほしいですね。

(実写化は…無理かな…)

 

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